嘘か実の浪漫

TENET。

 

クリストファー・ノーラン監督の最新作。

速報予告を見て以降、ずっとずっと楽しみにしていた作品だから期待値はかなり高かった。

公開されてから何度かチケットを取ろうとしたものの、予約しようとした時には既に満席。そんな状態が1週間続いた頃、やっとこさ新宿TOHOシネマズにて、IMAXレーザーでの上映回チケットを取ることができた。

 

IMAXの画面はやたらでかい。

まるでその空間ごと包み込んでしまうかのように湾曲していて、地面から天井まで目一杯引き伸ばされているようでもあった。偶然にも、以前IMAXで鑑賞したのもノーラン監督の「ダンケルク」だったことを思い出す。

 

上映が始まる。

冒頭から呑まれる。

おおよそ3時間の上映時間が気にならないくらい、没入したままエンドロール。

 

確かに、これは前知識なしの初見では難しい。そう思った。

この世界独自の用語、映像の切り替わり、そしてノーラン監督らしいロマンチックな演出によって、要所要所で不明な点が出てくる。しかし物語は遠慮なく進む。というか戻ったりもする。だからややこしい。だけど面白い。否応無しに目を奪われる。

 

途中までは振り落とされないように必死で台詞の端々を注視していたり、頭の中で物語の順序を組み立てながら観ていたけど、この作品の楽しみ方はそうじゃないのかもしれない、、(少なくとも自分は)と思ってからは肩の力をぬいて観ていた。

そうすると、ただただ圧倒的な"映画力"がそこにはあって、いい作品だなあと単純に思わされる自分がいた。

 

「TENET」を観てから3日経った現在、まだ余韻が残っている。

というのも、この記事を書いている間ずっと、ルドウィグ・ゴランソンによる本映画のサントラを聴いているからで。これがめちゃいい。

観ている時から流れてる音楽のかっこよさに鳥肌たっていて、今回もハンス・ジマーいい仕事するなー!なんて思っていたのだけど、クレジットを見ていたら全く違う人だった。

(ハンス・ジマーはノーラン作品ではお馴染みの作曲家で、バットマンシリーズからずっと映画音楽を担当している。でも今回は違うと、)

 

ルドウィグ・ゴランソンはスウェーデン生まれの36歳。

映画音楽では「ヴェノム」や「ブラックパンサー」などにも参加している。他にも多数手がけているけど、この三つだけでもなんとなくの共通項がある気がする。

ざっくりとした感想になるけど、心の奥底から鳴ってるような音を使う、そんなある種の不穏さや不気味さが特徴だと思った。

最近レンタルで「ミッドサマー」を観たんだけど、あの祝祭の舞台になってるのもスウェーデンで、たまたまなのかもしれないけど、国の宗教観に則した底通する意思みたいなものを感じた。(まったくの適当なんだけど)

 

ブログやYouTubeでは解説や考察が沢山ある。

『これを見れば〜』『ノーランが本当に伝えたかった〜』『完全解剖〜』といった具合の見出しで人を呼び込んでいる。

時にはそういうのを読んだり見たりして知見を深めるのも楽しいけれど、今回の「TENET」はなんか、観たままでいたいなと思った。

他の人の"見方"を入れなくても、自分と作品との対話だけで充分満たされていて、そこに、これが真実です。って上書きされたくないなあと。

もちろん不明な点はあって、どういうことなんだろうってモヤモヤもするんだけど、そしたらまた観ればいいだけで。もしくは思い返しながら自分でチャート作って謎解きみたいに考えてみてもいいし。まあこの未解決なままも楽しかったりする。

 

あとすごくエヴァみたいだなと感じた。

映画を観た帰り道、この感覚は何かを観た後と似ているなとグルグル考えていたら、ふっと着地した場所が庵野さんの作品で。

オタク的な偏愛のごった煮ような、他人からしたらよくわからない事の中に強固な視覚的・聴覚的な快楽が組み込まれてある。

庵野秀明監督が幼少期に見たウルトラマンをベースにエヴァンゲリオンを組み立てたとして、ノーラン監督は過去の膨大なSF作品やスパイ映画への愛情と敬意と遊び心をもって今回の映画に臨んでいたんじゃないかと。

そこへの肉付けは神話、哲学、物理等色々あれど、私的で詩的な詰め込み型のエンターテイメント。それをどう仕上げるのかの違いであって、感性は同じもののように思う。

おもしろいよなー。単純にも複雑にも受け取る人によって変化できる作品。

 

 

ここまで、ネタバレは一つもしていないはず。

これから観る人のためにも、あくまで個人の感想の範囲を出ていないと思う。

 

「TENET」

逆から読んでも、