またそのオチかい

高所恐怖症である。

 

高層ビルを下から見上げる時、大きな川に架かる橋を渡る時、小高い丘を登っている途中に映る遠くの景色。もっというと、2mくらいの壁をよじ登った時に見下ろす地面との距離でも足がすくんでしまうことがある。

小さい頃からなので今更どうしようもないのだけど、もう一人の自分がその怯えている姿を見て「情けないなー」と思ったりもする。

 

前にも、山の中にある神社に行った帰り、結構な傾斜の階段にビクつきながらも、さすがに目に見えて怯えている様子じゃ格好がつかない。一応そのくらいの羞恥心は持ち合わせているので表面上はなるべく気丈に振舞っていたのだけど、やっぱり目の前を向くほどの余裕もない。高所あるあるの強風も相まって身体は硬直。

考えて考えた結果、足がつった状態を演出しながら降りるという案を採用した。 

「いっ、、た...。っっきついな、、っつ!」

といった感じで、自分は今、仕方なくゆっくりにしか降りることができない、普段だったらすたすたと降りているのにチクショー悔しい!もっとこの景色を楽しみたいのに〜!、といった具合に過剰な表情と声で周囲にアピールをしていた。

その横を通り過ぎる女の子と犬。

足早に駆け下りていくその姿に、少し遅れてからその子の両親が「お〜い!あぶないぞ〜ころぶなよ〜笑」といった感じで呼びかける。「まったく、あの子ったら元気が有り余ってるのかしら笑」といった優しい声が聞こえる。微笑ましい、会話。

 

「.....。」

 

「っっったぃなあ、、っつ!っきつー!」

夕陽が沈もうとしていた。

手すりにはうっすらと手汗の跡が残り、この後に触る人ごめん!と思いながら、それでも、必死だったのだ。

周りがどうとかじゃない、これは自分自身との勝負なのだ。

 

残すところあと10段といった所で急に治る足。汗をぬぐいながら景色を楽しむ。

あー来てよかったなー、最高。

そこには、暗くなった住宅街の入口と、真っ黒な影となって浮かび上がる大きな鳥居があった。

 

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