ちいさな「お」

ここんところは散歩。

 

地図アプリは開かず、目的地も決めずに歩く。

家を出て大まかな方面だけは把握しつつも、あとはその時の直感で右か左かを選択。そうして歩いたことのない場所へ進んでいく。とは言っても別段刺激的な光景があるわけもなく、平々凡々とした家や畑や道路の連続。でも時に肩の力を抜いて、どうでもいいような気分で辺りを見回してみると、いくつもの小さな「お」がある。

 

この表札にある苗字はなんて読むんだろう。書体がすごいな。窓辺のぬいぐるみの視線。庭の木が手入れされていて立派。コンクリート打放しの家が周囲と関係を断絶していてまるで要塞。私有地くらい狭いのにちゃんと公道なのかここ。突然のパン屋。コインランドリーにあるドラえもん。団地に舞い散る桜。広いわりに人気のない公園。川がきれい。

 

この道とこの道がつながってたんだーとか、行き止まりかと思って近づいたら暗渠になってる小さな横道があったり、アラビアの宮殿もしくはベレー帽みたいな形の屋根の建物が工事中で、何ができるんだろうと思って看板を見たら「こども園」とあって、ほえーとなったり。

 

気が付いたり考えたりしながらも身体は常にリラックスしていて、両手はいつでも自由にしていたい。実際はやらんけど妄想の中では両手広げてバランス台の上、ふらふらと浮遊させているように歩きたい。ジョーカーの階段しかり、もしくは指揮者の振る舞い。

 

セロトニンのおかげでロマンチックは拍車をかけていく。

目をつぶって鼻から空気を吸い込んで、見上げたら葉桜。

恥ずかしげもなくこういう写真を撮っている自分を笑いながら、そっと手を閉じた。