星と舟

今回は先日12月13日(水)にリリースされた、みらんさんの新しいアルバム「WATASHIBOSHI」のジャケット制作について、完成までのラフを見ながら当時を振り返りたいと思います。

みらん 3rd ALBUM 「WATASHIBOSHI」

1.与えられる夜 
2.恋をして 
3.私のハート 
4.好きなように
5.もっとふたり 
6.夏の僕にも 
7.ドラゴンに出会う
8レモンの木 
9.海になる 
10.天使のキス

Art Direction, Design:多田優香 Illustration:近藤大輔

 

 

依頼をもらったのは今年の夏。高円寺で開催していた展示にマネージャーの中野さん、デザイナーの多田さん、みらんさん3人で来てくれて、そこでアルバムジャケット制作してくれませんか?と打診があり二つ返事で承諾をした。

まじか嬉しいなありがたいなという率直な気持ちと、活動を応援してるいちファンとしては、時期的にアルバム制作してる頃かもなーもしかしたら自分に声かかるかもなーと多少期待している下品さも持ち合わせていたので、その日は意気揚々と家まで帰ったのを覚えている。

 

制作に取り掛かる。

送ってもらったアルバムのタイトルとコンセプト、それに伴うなんとなくのイメージを元に絵を描いていく。そ!し!て!リリース前の音源を聴ける喜び。それを許された数少ないうちの1人という特別感にドキドキワクワク。姿勢を正して1曲目から10曲目まで、既出曲もこの並びの中にあるとまた違って聴こえてくる。アルバムという作品ならではの醍醐味。あっという間に聴き終わって、すぐさま1曲目に戻って「お〜」とか「うわ〜」とかこぼしながら仕事ということを忘れて普通に楽しむ。

リピートで聴きながら全体のテンションや雰囲気を想像する。

 

形のないものに形を与えていく作業。言葉では説明しきれないものを「これです!」とパッケージ化するのはとっても難しい。だからこそやり甲斐もあるし、何よりいろんな知恵と工夫が詰められた作品たちが目前に並べられてる。その一部と全体を何度も行き来しながら、眉間にシワを寄せてあーでもないこーでもないペンを動かす。絵はいつだって楽しそう。

 

「WATASHIBOSHI」というタイトルは、みらんさんが考えた造語。アルバム全体に底通する”私”や”星”といったテーマのほか、岸から岸へ人や物を乗せて運ぶ渡し舟のように、聞く人と曲とを繋ぐ役割としての願いも込められている。(”星を渡す”という意味でもあるし、そこらへんの細かなニュアンスはここじゃなく本人のインタビューを読んだ方がいい。「BIG UP!」と「niewmedia」に載っています。というか何よりもまず曲を聴いたほうがいい!)

 

七福神ならぬ七星人。

採用されないものでも浮かんだらとりあえず描いておく。

 

彫刻にするモチーフが星と舟なので、それをどう形にするのか迷う。

船頭が先導するで韻を踏んでいる。

 

舟の種類を考える。ボートのようなもの?クルーザーみたいにぐいぐい進むもの?素材感は?

その派生で波の用語を調べてメモをする。

 

加工には色気がないから、なるたけ手作業の感じを入れたい。でもそれだって誰もが考える方向ではあるから、どうやってその中でいい塩梅を目指すか、、

 

ここまでくると思い浮かぶことが堂々巡りしてきて、絵を描くことに逃げてます。

 

絵の周りにちょくちょく書いてあるメモは、その時ふと浮かんだ言葉たち。

もう昔からの癖で、いま見返すとなんか的外れの恥ずかしいこと書いてるなってのもあるけど、そういうのも大事だから意味があってもなくても記録するようにしている。制作の中盤以降はどうしても意識的に手や頭を動かすことが多くなってくるので、せめて入口は感性と衝動を尊重させたい。

 

なんか偉そうに書いてるけどこれも衝動。

 

波飛沫あげながらぐいぐい進む。

 

 

そしてそれから数日後、

どうしようかな、と考えながら絶対につくらない人喰い星を描く。

 

舟のデザインと配色の感じを探る。

 

それぞれの曲の歌詞から印象的な、絵にできそうな言葉をピックアップしてみる。

 

ここらへんはただ絵を描いてた。

 

歌詞から抜き出した言葉をもとに絵を描いて、それが何かに使えないか試しているところ。

 

ずっと平面で考えていても埒があかないし、納期も迫ってきてるということで、一回舟をつくってみることに。形にしてみてそこから見えてくる問題点もあるはず。

とりあえず形にはしたものの、これかなあ?という感じのまま試し撮り。

うーん、ボツ。

 

そして打ち合わせ。

 

たしかここで「ロマン」という要素が今回のアルバムジャケットでは必要ということをみらんさんが話していて、なるほど足りなかったのはそれだったか、と腑に落ちた記憶がある。

水面静かに浮かぶお椀のような、もしくはやわらかい三日月みたいな舟に、ちょこんと星が乗っているイメージ。周りにはなにもないけど寂しさではなく、そこには目に見えないけどたっぷりとした空間が漂っている。色は緑とピンクと白でパターンを試すことに。

ぐわーっと描いてぐわーっと提出!選ばれたのは、

 

このパターン

ちゃんとこの絵のムードを再現できるように気持ちを切り替えて、彫刻の制作にとりかかる。

 

 

最後に、舟の両端をくいっと上に反らす感じで調整したら形は完成。

色を塗って簡単に撮ってみる。

思っていたよりちゃんと再現できていて一安心。

ただ、自分の撮影環境ではジャケット使用に耐えうる素材を撮れないので、ここでデザイナーの多田さんにバトンタッチ。彫刻を送って写真撮影、そのままデザイン、入稿と作業は進んでいった。

 

そうして、出来あがったものがこちら。

まさか自分の彫刻の顔が、誰かの作品の顔にもなろうとは数年前には想像もしなかったことで。で、ここには沢山の想いが詰まっているわけですよ。そんなの当たり前だけど、そんなことにもまず感動する。だってアルバムっていったらアーティストにとって一つの到達点なわけで、そんな大切な場所に声をかけて貰えたことが嬉しい。そしてみらんさんは勿論のこと、会ったことは無いけどクレジットされているすべての人たちの時間と感情と言葉たちが集まっては磨かれ、そのうちに残った結晶がこうして世に出されるんだと思うと、やっぱり表現って面白い、作品制作ってすごいなあと物作り1年生みたいな感想を吐いてしまうわけです。

 

なのでね、読む読まないに関わらず、わざわざここまでスクロールして辿り着いたのならぜひ一度、アルバム聴いてみてください。

ギミック過多や時代分析だけのファストオマージュが目立つ中で、すごく実直でいいアルバムだと思います。この数ヶ月でもう100回以上は聴いてるけど、いまだに「もっとふたり」からの「夏の僕にも」の繋がりにはぐっとくるし、「レモンの木」の豊かさは聴き入っちゃうし、「天使のキス」で終わったあとまた「与えられる夜」から始まるリラックス感が好きだし、アルバムの中にあると「好きなように」のコミカルさが際立つなーとか思ったり。

もっと細かい箇所まであげたらキリないけど、そんくらい自分にとっても思い入れの強い制作でした。

 

とまあ長くなってきたので最後に、これは依頼されたわけじゃなく勝手気ままに、ジャケットに登場する星がアルバムの曲たちと出会いながら旅をする、というイメージで描いた絵です。

おわり。