まあプロなんで

朝9時。

家のピンポンが鳴り、ドアを開けると施工業者の人たちが「おはようございます!本日はよろしくお願いします!!」と第一声。目の覚めるような快活さ。

いくら今回の主役が自分でないとはいえ、起き抜け寝癖全開で出迎えるのもなんか嫌だなと思って、いつもより早めに起きてシャワーを浴び、シャキッとした気持ちで準備していたつもりだったのにそれを上回る声の力。職人さんの朝は早い。

 

こちらこそお世話になりますと返しつつ、早速問題のある箇所へと案内をする。そこは作品制作のための部屋で、普段は画材やら資料やらが散乱している。おまけに床は乾いた絵の具まみれのビニールシートを敷いているので、とても人を招き入れるような状態じゃない。なので前々日から片付けをし、掃除機をかけて雑巾がけをして、よく換気をしつつ、業者が到着する数分前には消臭スプレーまで噴射しておいた。彼女か。

 

遡れば2週間ほど前、住んでいるアパートの下の階の部屋で雨漏りが起きているらしく、その原因が自分の部屋のベランダにある電気温水器の配管劣化にあるということで、急遽業者とやり取りをして施工日を決めたのだった。

 

あれよあれよという間に床や壁が養生され工事は始まった。

工事している間、鍵を渡してもらえれば外出していても大丈夫ですよとは伝えられていたものの、なんかやっぱり他人が家にいる状態で留守にすることはできんなーと思い、隣の部屋にスケッチブックとペンを持っていき絵を描きながら待つことにした。

 

ギィィィィィィ!ガンッガンッガンッ!トントントントントン!スチューチューチュー!

床を剥がす音、木材を切る音、何かを叩く音、ゴミを吸い取る音、通常ならとっくに騒音で訴えられるレベルの音たちが次から次へとオーケストラ。最初こそ、おおっと驚いてそわそわしていたものの、次第に慣れてくると気にせず絵を描くことに集中できるようになった。

道具を取りにいったり戻ってきたり、その度に玄関が開け閉めされて一瞬だけ風の通り道が生まれる。その時に少しだけ何かをバーナーで焼いたような匂いがして顔を上げたけれど、養生シートで囲まれた部屋の様子は窺い知ることができなかった。

 

しばらくして現場監督の人が声をかけてきた。

「すべて終わりましたので、最後に現状の確認だけ一緒にお願いします」

え?もう?まだ2時間くらいしか経ってないけど。事前には9時から17時くらいまでを目安にみといてくださいって言ってたのに、まだ11時過ぎですよ。え???

そう思いながら、すっかり養生も回収されて何事もなかったかのように片付けられた部屋を見て再度驚く。ひとつひとつ工事した箇所を現場監督が説明してくれている間も、思考の半分は(なんでこんなに早いの?)という疑問が頭の中で反芻していた。

 

説明も終わり最後に、何か質問などありますか?と訊かれたので、率直に「なんでこんなに早く終わったんですか?事前の話だと夕方くらいまで」と言っている途中に現場監督は少しはにかみながら、でも当然ですよといった感じで「まあプロなんで」と短く答えた。

 

まあプロなんで。

 

なんてかっこいい響き!

プロ、プロとは、そんな表面的な意味のことはどうでもよくて、単純にその言葉を嫌味なくスパッと言い切れるほどの裏打ちされた経験を想像して感動した。しわの数だけじゃないけど、こういう、人のぶ厚さに触れることができたのは久々だったし、自分も今はまだまだ半人前でも、いつかこう言える人になりたいよなあとしみじみ思った。

さすがに14年絵を描き続けてきてアマチュアと自分のことを位置づけするのも変だけど、かといってプロでございってな立ち振る舞いもなんだか落ち着かない。というか意識してそういう立ち振る舞いしてる奴も奴で好きじゃないから憧れない。たいてい作品もつまらないし。

ってか34歳にしてまだこんな入り組んだ思考してるのがそもそも間違いなんじゃないかって気もするけど、気もするけど、そういうストレスなしに大きな面白には出会えないんだろうし、この道なかばに思える狭間みたいな期間が一番重要なんだろな。

 

確定申告したり、まだ発表前の企業との仕事をちまちま進めたり、大雪の長野県に行ったり、少しリバウンドしたりしながらも生活はあって。

そんなこんなでこれからまた、認知されるために作品投稿していきたいと思います。