サンプ・サンプ・サンプ

f:id:Kond:20200428160550p:plain

よく母親の運転する車の中では、ポルノグラフィティのベストアルバムが流れていた。 

好きかと問われれば好きと答えるが、特にそれ以上の頓着がない。みたいな人だったから、聞き飽きて他のCDを選ぶということもせずに永遠とローテーション。

おかげさまで、僕の初めて買ったCDはポルノグラフィティの「THUMPx」というアルバムになった。

 

いまだにそのアルバムは持っていて、一曲目、ギターの音と小気味なシャウトが重なったイントロを聴くと毎回不思議な気分になる。

アップテンポな曲調、女心がわからない男を女性目線から描くその歌詞から誘発される感情とは、明らかに違うもの。

そこには自分だけの芸術が存在していて、それは他の誰にも介することのできない特別なもので。そしてそれはきっと誰の中にもある。

知らず知らずのうちにタイムカプセル化していて、思わぬタイミングで中の錠剤が砕けて溶けだしている。じわーっと身体の隅々まで行きわたり血となり肉となり、そしてそれ以上に、精神を支え作るのだと思う。

まあそんなわけなので、他の「アポロ」や「ミュージックアワー」といった初期ポルノ曲も、ただの懐かしのヒット曲ではない別の、自分だけの情景がぼんやり浮かぶ曲となった。

 

 

 

薄い日よけのフィルムが貼られた車の助手席。そこから外を眺めていた。なんの意味もなく、前方から後方へと消えていく店の看板。その一つ一つを小さく声に出していた。目的地までつづく景色は灰色に混じって、時々揺れる車体が妙に心地よかった。

喫煙者だった母親の吸うピアニッシモの匂い。それを和らげる役割のようでいて実際は輪をかけて強烈空間にしていた芳香剤。耐えきれなくなって外の空気を入れるために窓を開けた。クルクルヒューと白煙が巻く。その行方を目で追っていた遊び。それにも意味があったわけじゃない。意味なんかない。すぐに寒くなって、窓を閉めた。ばたん、

 

f:id:Kond:20200428165447p:plain